安定にみえる食卓
とある夕方、私は夫のために夕ご飯を作り始めた。
そして、もうすぐ日が沈みそうになった明るさで夫は帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
結婚から3年経ち、私たちは男女というより徐々に同居人となっているのが否めない。
私は結婚してから事務の仕事に転職した。元々、結婚したら専業主婦になりたいと子どもの頃から思っていたが、
夫の稼ぎだけではカツカツになってしまう……。
しかし、家事もしなければいけないため、残業があまりしない仕事をしたいと思い、事務の仕事をしている。
私は、仕事から帰ると、後に帰ってくる夫のために料理を作る。
私が帰ってから1時間くらい経つと夫が帰ってきて、夕ご飯を食べる。
よその人から見れば何も問題のない生活だと思われるが、私は最近、寂しさを感じていた。
夫は、結婚したては私の料理を必ず美味しいと言ってくれて、自分の皿を洗ってくれていたが、今では、黙って食べるし、食べ終わるとテレビを見始めてしまい、片付けすらしなくなった。
別に、いつまでも新婚の状態でいるには無理がある。それは私にも分かっているが、
せめて、自分の皿を流しに持っていってほしい。洗うのは私がやるから…。
と思っていた。
今日も、夫はでゾンビ映画を観ている。
私は夫に言ってみた。
「ねぇ、ご飯食べたら自分の皿、流しに持ってってよ。手間になるんだからさ。」
「何だよ、俺は疲れてるんだよ。仕事の後ぐらい息抜きさせろよ。」
チッ
私も仕事してるのに、何もしようとしない夫に腹がたち、私は旦那の分だけ皿を片付けるのをやめた。
昨日の食器が残った食卓
翌朝、テーブルに昨日の夕ご飯の茶碗や皿が何食わぬ顔で残っていた。夫の分だけ。
「おい、何だこれは。」
夫が不機嫌に私に聞いた。
「昨日さ、仕事の後ぐらい息抜きさせてって言ったよね。私は仕事した後に料理作って、食べた後、片付けて洗っててさ、全然息抜きしてないんだけど。」
「お前は楽な事務仕事なんだからそのぐらいやれよ。」
チッ
「そのぐらいって思ってるんなら、皿を片付けることくらいできるよね? 私は自分の分しか片付けないから。」
私は、朝ごはんのトーストを夫の分まで焼いて、仕事に出た。
そして、その日の夕ご飯。私はいつも通り料理を作っていたが、まだ昨日の夕ご飯の茶碗は片付けていない。
なので、新しい茶碗やおかずを乗せる皿を使う。
夫が帰ってきた。
まだ片付けていない皿が乗っているテーブルを見て、舌打ちをした。
でも、あえて何も言わない。
私は、片付けていない皿をどけながら、夫に料理を出した。
夫は片付けていない皿に関して何も言わず食べる。
そして、食べ終わるとテレビを見始めた。
今日の分の皿も片付けなかった。
私は意地でも夫の分だけ片付けなかった。
食器だけ大人数の食卓
それが数日続いた。
テーブルが片側だけ茶碗と皿で埋められていた。
それでも、椅子に近い部分だけは余白を死守していた。
なぜか、食器を上に積み上げていなかったので、並びだけは食器の展示会なのかという勢揃い感だった。しかし、洗っていないので人は集まってこないだろう。
日にちが過ぎて洗っていない食器たちは嫌な臭いを出していた。
肉炒めを乗せていた皿には、肉の油が白く固まっているし、他の食器にはカビのせいなのか少し変色していた。
それでも、私は片付けなかった。夫のやることだから。
夫もむきになっていてちっとも片付けてくれない。
これは先に折れて片付けてしまった方が負けなのだ。だから、どんなに臭いニオイを発してもやらない。
片付けなくなって5日後、私は体調が悪くなった。
咳き込むようになったし、熱っぽい。風邪なのか、ストレスなのか
それか、洗わない食器による細菌のせいなのか……。
後半に続く
この作品はフィクションです。 作中の人物は架空であり、実際の人物・団体とは一切関係ありません。
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